公的調査が示すのは「移住前の懸念」
以下の数値は、移住後の後悔・失敗の発生率や因果関係を測ったものではありません。内閣官房の2020年調査(東京圏在住20〜59歳、n=10,000)は、地方移住への関心、不安、ネガティブイメージ、情報収集状況を調べたものです。
同調査で、地方移住への関心に「関心がある」「やや関心がある」「気になる」と答えた4,981人のうち、情報収集を「している」と答えたのは690人(13.9%)でした。これは全回答者10,000人に対する割合ではなく、上記3回答の合計を分母にした値です。
公的データで見る「不安・懸念」の中身
今回確認した公的資料は、移住の「失敗率」を示していません。一方で、移住を検討する人が何を不安に感じるかを示す公的調査はあります。
内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局が東京圏在住の20〜59歳・10,000名を対象に実施したWEB調査(2020年1月)では、地方移住に関心がある層の不安・懸念点は次のとおりでした。
| 領域 | 調査で示された懸念・ハードル | 数値 |
|---|---|---|
| 仕事・収入 | 「働き口がみつからないこと」(不安・懸念点の1位) | 50.8% |
| 交通・利便性 | 「公共交通機関が不便なこと」(同2位) | 49.7% |
| 収入 | 地方の暮らしへのネガティブイメージ「収入が下がる気がする」 | 50.2% |
| 交通 | ネガティブイメージの1位「公共交通の利便性が良くなさそう」 | 55.5% |
| 情報収集 | 上記3回答の合計4,981人のうち、情報収集を「している」690人 | 13.9% |
| 情報の質 | 情報収集している人のうち「発信されている情報が少なく、あまり満足できていない」 | 45.4% |
(出典:内閣官房「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書」2020年。詳細は記事末尾の出典参照)
また、国土交通省が2023年10月の移住・二地域居住等促進専門委員会に提出した資料では、移住のハードルとして「移住者向けの住居の確保」「仕事のマッチング」「地域での円滑なコミュニティ形成(孤立・孤独の解消)」が挙げられています。行政側も、住まい・仕事・コミュニティの3点を構造的な課題と捉えていることが分かります。
これらの懸念は、仕事と収入の見通し、交通手段、住まい、コミュニティを事前確認する項目に言い換えられます。ただし、調査は「これらを確認しないと後悔する」という因果を示したものではありません。
出身圏別に見る懸念の違い:Uターン候補とIターン候補で優先順位が異なる
同じ内閣官房調査(2020年、n=10,000)を回答者の出身地別に見ると、地方暮らしへの懸念の中身が異なることが分かります。同調査の図3-33には地方圏出身者(Uターン候補、n=2,492)と東京圏出身者(Iターン候補、n=7,508)に分けた内訳が掲載されており、次のような差が見られます。
| 懸念の内容 | 全体(n=10,000) | 地方圏出身者・Uターン候補(n=2,492) | 東京圏出身者・Iターン候補(n=7,508) |
|---|---|---|---|
| 公共交通の利便性が良くなさそう | 55.5% | 53.0% | 56.3%(最多) |
| 収入が下がる気がする | 50.2% | 55.0%(最多) | 48.6% |
| 日常生活の利便性が良くなさそう | 41.3% | 34.6% | 43.6% |
| やりがいのある仕事が地方にはない | 13.6% | 18.4% | 12.0% |
(出典:内閣官房「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書」2020年、図3-33〔地方圏での暮らしに対してのネガティブイメージ〕の出身圏別掲載値より当サイト抜粋・整理。詳細は記事末尾の出典参照)
地方圏出身者(Uターン候補)は「収入が下がる気がする」が55.0%で、「公共交通の利便性が良くなさそう」の53.0%を上回ります。「やりがいのある仕事が地方にはない」は18.4%で、東京圏出身者の12.0%より6.4ポイント高い結果でした。調査はこの差が生じた理由まで測定していません。
一方、東京圏出身者(Iターン候補)では「公共交通の利便性が良くなさそう」が56.3%、「日常生活の利便性が良くなさそう」が43.6%でした。後者は地方圏出身者の34.6%より9.0ポイント高い結果です。ここでも、差の理由は調査からは確定できません。
出身圏別の数値は、自分が特に気になる項目を見落とさないための参考にできます。個人の優先順位は出身地だけで決まらないため、収入、仕事、交通、生活インフラをそれぞれ確認してください。
要因別の事前チェック方法
仕事・収入
- 移住先で今の収入水準が維持できるか、求人サイト・ハローワークの求人で相場を確認する
- リモートワーク継続なら、勤務先の制度が恒久的か・出社頻度はどうかを先に確認する
- 内閣官房調査では、情報収集をしている人が発信してほしい情報の1位も「仕事(収入含む)、就職に関する情報」(60.3%)でした。仕事の情報収集は移住準備の中心に置くのが妥当です
住まい
- 同調査で情報収集をしている人が発信してほしい情報の2位は「住居・住宅購入に関する情報」(58.3%)です
- 空き家バンクには「現状有姿」条件の物件もあり、改修費が取得費を上回る可能性もあります。契約前に建物状況と未確認箇所を整理し、工務店等の見積もりを取ります
- 賃貸の選択肢が少ない地域もあるため、「まず賃貸で試す」が可能かを確認します
気候
- 観光シーズンの印象と生活の実態は別物です。豪雪地帯なら冬の除雪負担・暖房費、暑い地域なら夏の生活を、気象庁の平年値データ(気温・降雪量)で確認できます
- できれば「不便な季節」に現地滞在して体感するのが確実です
医療
- 通院中の診療科・かかりつけになりうる病院までの距離と移動時間(車と公共交通の両方)を地図で確認します
- 子育て世帯は小児科・産科、夜間救急の体制を。高齢の家族と移る場合は介護サービスの状況も確認対象です
交通・コミュニティ
- 「公共交通機関が不便なこと」は懸念の上位です。車なし生活が成立するか、1人1台が前提かを確認し、車の購入・維持費を生活費に織り込みます
- 自治会・ごみ出しルール・近所付き合いの濃さは地域差が大きい項目です。移住相談窓口や先輩移住者への質問、お試し滞在で肌感を確かめるのが現実的です
事前にできる対策:お試し移住と相談窓口
お試し移住
移住体験住宅を用意する自治体もありますが、実施の有無、期間、料金、利用条件は自治体・年度で異なります。候補地の生活条件を確かめる場合は、買い物、医療、交通、通信環境を確認し、気候の影響が大きい地域では滞在時期も検討してください。
移住相談窓口
ふるさと回帰支援センター・東京(運営:公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構)の2025年発表では、移住相談件数は73,003件でした。これは当該センターの集計であり、全国の移住相談総数ではありません。各自治体の窓口と併用し、公開情報で確定できない項目の担当部署を確認してください。
内閣官房調査では、情報収集をしている690人の45.4%が「発信されている情報が少なく、あまり満足できていない」と回答しています。ウェブ検索、相談窓口、現地確認で情報を補完する方法があります。
よくある質問
Q. 移住の失敗率はどのくらいですか?
今回確認した公的資料は、移住全体の「失敗率」を示していません。一部の自治体や個別制度の定着状況を使う場合は、対象、期間、定着の定義、分母を確認してください。「○%が失敗」といった数字は、出典と調査方法なしに全国へ一般化できません。
Q. どんなケースで後悔しやすいですか?
公的調査で懸念の上位に挙がるのは仕事・収入(50.8%)と公共交通の不便さ(49.7%)です。この結果から個々の後悔・失敗を予測はできませんが、収入と仕事、交通手段は候補地比較表の確認項目にできます。出身圏別の値は前述のとおりですが、個人差もあるため出身地だけで判断しないでください。
Q. 準備期間はどのくらい必要ですか?
一律の正解はありません。参考として、内閣官房調査では上記3回答の合計層の89.8%が移住時期を「3年以上先、または決めていない」と回答しています。これは必要な準備期間を示す統計ではありません。情報収集、現地確認、仕事、住まい、家族の条件から自分の日程を逆算してください。
Q. どこに相談すればよいですか?
全国の情報を比較する入口としてふるさと回帰支援センター・東京を使い、地域を絞った後は自治体の移住相談窓口へ確認する方法があります。所在地、予約、費用、オンライン対応は各窓口の公式案内を確認してください。
まとめ
調査が直接示すのは、移住前の不安・ネガティブイメージと情報収集状況です。仕事、交通、住まい、コミュニティを候補地比較の確認項目にしつつ、数値を後悔・失敗の発生率や因果として読まないでください。当サイトの移住適性診断は、確認したい項目を整理する材料として利用できます。
出典
いずれもURL確認日: 2026年8月20日。
- 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局「移住等の増加に向けた広報戦略の立案・実施のための調査事業 報告書」(2020年3月・同年5月公表。WEB調査:東京圏在住20〜59歳、n=10,000、2020年1月30日〜2月3日実施)。図3-33「地方圏での暮らしに対するネガティブイメージ」の出身圏別(地方圏出身者n=2,492/東京圏出身者n=7,508)内訳を当サイトで抜粋・整理 https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/ijuu_chousa_houkokusho_0515.pdf
- 国土交通省 国土政策局「移住・二地域居住等の促進に向けた検討の方向性について」(第1回 移住・二地域居住等促進専門委員会 資料1、2023年10月) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001705261.pdf ※同資料内で引用:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2023年3月調査・回収数10,056、2023年4月公表)、国土交通省「二地域居住に関するアンケート」(2022年8〜9月実施、n=111,793)
- 公益社団法人ふるさと回帰・移住交流推進機構(ふるさと回帰支援センター)「2025年 移住希望地ランキング」プレスリリース(相談件数73,003件・2025年1月7日〜12月26日、アンケートn=19,021) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000078.000080953.html
※本記事の数値はいずれも上記調査時点のものです。制度・統計は更新されるため、最新情報は各機関の公式発表をご確認ください。
